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東京地方裁判所 昭和25年(モ)3749号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(事実)

被申立人は申立人会社が現に百貨店営業を行つている店舖(以下本件店舖と称する)について経営権ありと主張して、裁判所に対し、申立人を債務者として営業禁止の仮処分申請をなし、裁判所から、

「債務者(申立人)は本件店舖における出店者田中健一、若園年夫、杵淵淸六から売上金の七分、西宮常三郞、小室博、中屋敷龍蔵から八分、大野博から五分の各売上歩合金及び斎藤隆造から毎月末支拂を受けるべき金三千円の使用料をいずれも受取つてはならない。右店舖の階下にある第一番レジスター(番号一七四一A)及び第二番レジスター(番号一七五一E)に対する債務者の占有を解いて、債権者(被申立人)の委任した東京地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。右執行吏は、右レジスター二台(番号一七四一A、一七五一E)を使用して、毎日各出店者別に売上金(但し齊藤隆造を除く)の売上歩合金の計算をなし、前記割合による歩合金を收受し、残余の売上金を各出店者別に毎日返還し、右歩合金の中から必要経費を支拂つた後、その残金及び斎藤隆造から毎月末支拂を受くべき使用料金三千円を預金その他確実な方法で保管し、且つこの收支の明細を明らかにしなければならない」

という仮処分決定を得て、これを執行している。

申立人は、右仮処分における被保全債権は金銭補償によつてその終局の目的を達し得べきものであるから、これを取消すべき「特別ノ事情」(民事訴訟法第七百五十九條)があると主張し、本件申立において立保証を条件として右仮処分決定の取消を求める。(申立人の他の主張については省略する。)

(判斷)

申立人一部勝訴。判決は、斎藤を除く他の出店者等に対する売上歩合金債権と斎藤に対する使用料債権とを区別し、後者に対する仮処分についてはこれを取消すべき特別事情があるとして、申立人に金二万円の保証を立てしめてその部分の本件仮処分決定を取消しているが、前者に対する仮処分についてはこれを取消すべき特別事情が認められぬとして、この部分に関する申立人の本件申立を却下している。その理由は次の通りである。

「申立人は本件仮処分によつて保全せられる権利は金銭補償によつてその終局の目的を達し得べきものであると主張するので、この点について考える。被申立人が本件仮処分申請の理由として主張するところは、被申立人は昭和二十五年一月七日本件店舖並びに同店舖附属の什器、備品、商品の外同店舖における百貨店の経営権を含む一切の営業を申立人に代金二百万円で讓渡する契約を締結し、被申立人は同月中約旨に従いその履行を完了したに拘らず申立人は右代金の支拂をしないので、被申立人は同年七月十一日申立人に到達の書面で同月十五日までに代金支拂の催告とその不履行を条件とする契約解除の意思表示をしたのに、申立人は依然これが支拂をしないので右讓渡契約は同月十五日の経過と共に解除せられ、前記店舖、什器、備品、商品等の所有権は勿論同店舖における百貨店の経営権も被申立人に復帰したところ、申立人は当時本件仮処分決定に表示した田中健一、若園年夫、杵淵淸六、西宮常三郞、小室博、中屋敷龍蔵、大野博等七名の同店舖における出店者との契約にもとずき同人等からそれぞれ同決定記載の一定の割合による売上歩合金を取得し、また斎藤隆造から毎月三千円の使用料を取得していたが、前記契約解除以後はこれらのものより歩合金及び使用料を取得しうる権利は被申立人に属し申立人にその権利はないに拘らず申立人は引続き右のもの等より歩合金及び使用料を徴收し、被申立人の権利を侵害しつゝあると主張し、この被申立人が右田中健一外六名の出店者に対し有する歩合金及び斎藤隆造に対する使用料の各請求債権を確保するために本件仮処分申請に及んだことは同仮処分申請事件(当廳昭和二十五年(ヨ)第二四七〇号)の記録に徴し明かである。従つて本件仮処分決定により保全せらるべき被申立人の権利は結局被申立人より右田中健一外六名の出店者に対する歩合金と斎藤に対する使用料債権に対する申立人の侵害を排除する請求権というべく、かような請求権は、抽象的には申立人の主張するように、金銭的補償を得ることによりその終局の目的を達し得べき性質の権利といゝうるであろう。併しながら、(イ)先ず右の内前記田中健一外六名に対する歩合金債権の内容を仔細に検討してみるに、この歩合金債権はその算定の基礎となるべき日々の売上金額が一般の経済状勢及び各出店者の経営方法の如何により変動を免れない関係上、被申立人が出店者より取得すべき歩合金の額も予めこれを算定することは極めて困難であるばかりでなく、証人新井俊男、田中健一の証言を綜合すれば、本件仮処分執行前においては前記田中外六名の出店者等はそれぞれその賣上金を申立人の管理するレジスターに入れ申立人と各出店者の間で毎日これを計算し歩合金の額を算出の上これを授受していたことが疏明せられるから、もし本件仮処分決定を取消し従前と同様の方法で申立人と田中外六名の出店者の間で歩合金の算出授受が行われるときは右歩合金の算出に関与する機会のない被申立人としては事後において歩合金又はこれに相当する損害金の請求をしようとしてもその額について当事者間に争のあるときは被申立人においてこれを立証することが極めて困難であろうことは容易に推察できるところである。従つて被申立人が後日右歩合金の取得に関し勝訴の本案判決を得てもその確定までの間に生ずべき現実の歩合金の額につきその立証が右のように困難である以上、被申立人の前記出店者等に対する権利の行使は勿論、これに代るべき申立人に対する損害賠償請求権の行使は著しく困難となり、有名無実の権利となつてしまうおそれが十分であるということができるであろう。果してそうだとすれば、本件仮処分により保全せらるべき敍上被申立人の権利が抽象的に金銭補償が可能だという一事から直ちに申立人の主張するように保証を条件に本件仮処分を取消すべき特別事情ある場合に該当するものと断ずるのは失当であつて、この点に関する申立人の主張は採用の限りではない。

(ロ)次に、斎藤隆造に対する使用料債権について考えるに、この債権は前段の歩合金債権とは異り、その額が毎月三千円に一定しているのであるから、本件仮処分を取消した結果申立人において引続き右使用料を取得し被申立人の同人に対する使用料債権の行使がたとい不能になつたとしても、よつて生じた損害額を算定し且つこれを立証することはさまで困難とは認められないから、申立人に相当の保証を立てさせておけば、これにより被申立人は損害の補償を得て右権利を行使したのとほゞ同様の満足が得られるものと考えられる。従つて本件仮処分決定中右斎藤に対する使用料に関する部分については、申立人主張のように、申立人の立保証を条件にこれを取消すべき特別事情のある場合に該当するものと解するのが相当である。

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